管理監督者の範囲とは?

それでは最後になりますが、管理監督者に関する問題について、詳しく説明したいと思います。

昨今、監督官の調査における重点項目の一つとして、管理監督者の範囲についての適正化が掲げられているようで、その対象は、長時間労働が恒常化している業界、特に多店舗展開する飲食店に対して、重点的に実施されているようです。

こうした契機となったのは、マクドナルドの店長が、管理監督者であるかどうかということが争われた、マクドナルド事件です。

この事件は、平成21年3月18日に東京高裁で和解しておりますが、マスコミにも大きく取り上げられましたので、皆さんの関心度も高かったと思います。

そして、そうした報道や、国民の意識を利用するかのように、労基署は、管理監督者の範囲の適正化と称して、積極的に調査を実施するようになります。

第一審の東京地裁判決では、管理監督者であるか否かについて、「企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか」を検討しました。

これは、最近の裁判例や、労働行政においても見られる傾向ですが、労働基準法が事業場単位で適用されるにもかかわらず、なぜ企業全体の事業経営への関与の程度まで求める必要があるのかという点について、甚だ疑問を感じます。

実際に、36協定の締結や、就業規則の届出も事業場単位です。

マクドナルドの店長は、監督者として、店舗の従業員との間における36協定の締結権限を持っていましたし、管理者として店舗のアルバイトの採用や時給額の決定、スウィングマネージャーへの昇格権限までありました。

にもかかわらず、東京地裁は、店長に正社員を採用する権限がなかったとか、アシスタントマネージャーの人事考課の一次考課者に過ぎず、労務管理の一端を担うに過ぎないとか、全国展開する飲食店という性質上、店舗で独自のメニューを開発したり、原材料の仕入先を自由に選定したり、商品の価格を設定することは予定されていない等として、労務管理に関して、経営者と一体的立場にあったとは言えないと判断したのです。

ところで、管理監督者という言葉は、正式には、「監督若しくは管理の地位にある者」を言います。

ということは、監督者と管理者の二人格なのであって、監督者兼任管理者のことを言っているのではありません。 管理監督者という呼称を用いると、どうしても兼任しているように感じてしまいますが、法律上は、間違いなく二人格なのです。

したがって、労働基準法は、事業場単位での適用を受けるという原則に立ち返り、そして、事業場単位で監督者としての権限を有しているのであれば、労働基準法上41条2号の監督者ということができ、マクドナルドの店長も、いわゆる管理監督者に該当すると判断される可能性は十分にあったのではないかと思います。

しかし、東京地裁は、マクドナルドの店長について、労働基準法41条2号の「監督若しくは管理の地位にある者」とは認めず、それを法的根拠とし、会社に対して割増賃金の支払を命じました。

一方、管理監督者問題の本質である、健康問題の観点から見てみると、当該店長は、30日連続労働後に、60日以上の連続労働があったこと、そして時間外労働時間数が、月100時間を超えていたという事実認定がなされています。

第一審の東京地裁判決では、当該店長を救済する方法として、労働基準法41条2号の「監督若しくは管理の地位にある者」に該当しないとして、割増賃金の支払を命じるという方法をとりました。

しかし、問題の本質からすれば、会社から長時間労働を強いられたことにより、精神的苦痛を被ったという不法行為に基づく、慰謝料の支払を命じるという救済方法の方が適切だったのではないかとも思えます。

この点、この事件の原告訴訟代理人弁護士の一人も、「問題は残業代ではなく、長時間労働による健康の侵害」であると述べています。

勝訴した労働者側の弁護士でさえも、賃金ではなく健康の問題だと言っているように、やはり本質は健康問題であるということなのです。

管理監督者問題の本質が、健康問題であるということについては、ここまで述べてきた通りです。

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