タイムカード運用のリスク
タイムカード等の打刻時間から30分も一律に切り捨てるとなると、実労働時間の把握義務が使用者にあることから、本当に全社員に30分のロス時間があるということの証明を労基署等から求められることになります。
しかし、この証明は事実上困難だと言えます。
ただし、そのロスがあることの方が常識的なのですから、逆に切り捨てが10分程度であれば、労働者の方がそのロスが無いことを証明するように言えるのではないでしょうか。
したがって、5分から10分程度の切り捨てであれば、適法であると考えますが、労基署は、この点を十分理解しているとは言えません。
また、製造業のように、ベルトコンベアーの流れに応じて働いているブルーカラー等の場合は、ホワイトカラーと違って、ロス時間がないと考えられますから、このような議論は最初からしない方が無難だと思います。
ところで先にも触れましたが、使用者は、労働時間の把握義務を負っていますので、何らかの方法で実労働時間を管理し、時間外労働の時間も含めて把握しなければなりません。
仮にタイムカード等の機械的記録による方法のみで時間管理を行っている場合には、裁判例では、「タイムカードに記載された出勤・退勤時刻と就労の始期・終期との間に齟齬(不一致)があることが証明されない限り、タイムカードに記載された出勤・退勤時刻をもって実労働時間を認定する。」(千里山生活協同組合事件 平11.5.31大阪地裁 労働判例772号60頁)とされています。
したがって、推定を覆す事実の挙証責任(タイムカードの退勤時刻は残業によるものでないこと等)は、労働基準法によって労働時間の把握義務を課された使用者にあることになりますから、タイムカード等の機械的記録で時間管理を行う場合は、正確な記録をするように、従業員に徹底する必要があるでしょう。
しかしながら、正確な記録を徹底することは、実際にはなかなか難しいのが実情ではないかと思います。
確かに、ロス時間が10分程度であれば、通常考えられる範囲ですので、それが無かったことを労働者が証明するということも考えられますが、基本的には、ロス時間の証明責任が使用者に課せられることを考えると、タイムカード等に加えて、許可制を併用することが効果的だと考えます。
このような場合で問題になると考えられるのは、タイムカード等によって把握された時間と、許可制によって把握された時間に乖離が出てくるということです。
しかし、社内ルールとして、許可制が十分機能している場合であれば、タイムカード等によって把握された時間ではなく、許可制によって把握された時間を実労働時間として管理するということで、問題はないと考えられます。
ただし、この場合でも、それぞれの方法により把握した時間において、あまりにも乖離が大きいような場合には、許可制による時間管理が適正に運用されていないと推測される可能性があり、前述のように、タイムカード等によって把握された時間が実労働時間であるとの認定がなされるリスクがあります。
したがって、1~2週に1回程度は、監督者がタイムカード等の記録と、許可制によって把握した記録との乖離がないかどうかの確認をしておく必要があるでしょう。