調査の真の目的はコレ!

ある日突然、なんの前触れもなく、

「労働基準監督署です。突然ですが御社の調査を行いたいと思いますのでご協力願えますか。」

などと言って、見知らぬ労働基準監督官(以下、「監督官」という)が、やって来ることがあります。

そうです、これが労働基準監督署(以下、「労基署」という)の「臨検」「監督」と呼ばれる立ち入り調査の始まりです。

労基署に何回も入られている方以外は、尋常ではないと直感的に危機感を抱いてドキドキしてしまいますね。おそらく、税務署の税務調査を初めて受けるような感じでしょうか。

監督官は、労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法等に照らして、これらの法律を遵守しているかどうかを調査し、法違反があれば、「是正勧告書」を交付します。

また、法違反とまではいかなくても、法の趣旨から改善が望まれる点があれば、「指導票」を交付して、事業場に対して改善報告を求めてきます。

それは、監督官には、労働基準法101条等により、事業場に立ち入ったり、関係者への質問をしたり、帳簿や書類その他の物件の検査などを行ったりする権限が与えられているからです。

さらに、それだけではありません。事業場に立ち入るときも、特に通知する必要は無く、また、犯罪捜査が主体ではないことから、捜査令状の必要もありません。

このように、監督官が監督を行うのは、労働基準法等の法律を遵守させることが目的なのですが、なんと監督官には、特別司法警察職員としての権限まで付与されています。要するに、警察官と同じく、逮捕権まで持っているということなのです。

なぜ、そこまでの権限を監督官に与えているのでしょうか。その答えは、憲法にあります。

少々難しい話になりますが、この部分がキモになるので、少し説明させてもらうと、 憲法25条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と定めています。

最低限度の生活を営むためには、人間らしく生きていくための賃金、つまり最低賃金が決められていて、「雇用」「賃金」が守られなくてはなりません。

さらに、その前に「健康で」という文言が記載されていますから、使用者は労働者を使う以上は、会社でケガや死亡事故、あるいは過重労働で精神障害にさせたりしてはなりません。

労働者の安全と健康は、使用者が絶対に守らなければならない、最重要項目なのです。

また、憲法27条2項には、「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」とあり、それを受けて制定されたのが、労働者保護の法律である「労働基準法」なのです。

そして、労働基準法の中に含まれていた、最低賃金に関する条文と、安全衛生に関する条文が独立して、それぞれ「最低賃金法」「労働安全衛生法」となったわけです。

したがって、監督官が特別な権限を付与され、事業場を監督する目的は、憲法25条の理念を実現するために制定された、労働基準法等に基づいて、労働者が、健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるかどうかを、賃金、安全、健康などの面から確認するために実施しているということになります。

その中でも、電通事件以降、過重労働による精神障害や、それに伴う自殺が増えており、労働者の健康について特に留意することが求められています。

ですから、監督官による監督の本質は、【労働者の健康問題】であるということになるのです。

まずは、このことを認識して頂くことが、監督官への対応のベースとなりますので、しっかり覚えておいてください。

前へ  次へ

このページの先頭へ