民事的に解決するには?
以上のように、基本的には3ヶ月間の遡及払いで対応すれば良いと考えていますが、いずれの場合も、従業員から「当該金額の支払いをもって、会社と本人との間に債権債務は無い」という旨の放棄書を提出してもらうようにすることです。
監督官から、2年間の遡及払いを求められても、3ヶ月分の遡及払いに加えて、放棄書を添付して報告すれば、民事的に収まっているので、監督官は口出しすることは出来ません。
労基署は民事不介入だからです。
さて、従業員から放棄書を提出してもらうことが、対応として重要になってくると説明しましたが、その場合、会社と従業員との間に、信頼関係が構築されているかどうかが、大きなポイントになります。
つまり、従業員が放棄書を提出してくれるかどうかは、会社の企業規模と業績に応じた分配がなされていたりする等、労使間の信頼関係が、どの程度構築されているかにかかっていると言えます。
よって、従業員との信頼関係をベースに、従業員にきちんと説明をして、理解をしてもらうように努め、放棄書にサインをしてもらうというような誠実な対応が求められます。
間違っても、従業員に隠すような形で、物事の収束を図ろうとしないことです。トラブルが余計に大きくなるだけです。
ただし、放棄書を提出してもらった後に、従業員が民事裁判に訴えるかどうかは、別問題です。
例えば、2年間遡って、200万円の未払いがあった場合に、20万円を支払って、残りの180万円を放棄するという放棄書を提示した場合、それにサインしない従業員が発生する可能性は高いでしょう。
そこで通常は、20万円を受け取ったことによって、会社との間に債権債務はありませんという内容の放棄書にサインをしてもらうことになります。
しかし、この放棄書の場合、監督官による送検を免れることはできても、従業員個人が、後に民事裁判に訴えた場合には、効果はほぼありません。
そうは言っても、監督官の監督に対して、送検を免れるための手段、及び従業員との間での混乱を防止するという観点からすれば、大変有効な手段だと思います。
なお、申告監督による場合には、労働者自身が、2年分遡及して支払ってほしいと監督官に申告するのが通常ですから、是正勧告の内容は、2年分の遡及か、あるいは時効が2年であるという注釈の有無はあるでしょうが、実際には、遡及期間の記載がない場合がほとんどです。
この場合は、申告者がいるのですから、申告者たる労働者と個別に合意しなければ、何の問題解決にもなりません。
したがって、申告監督の場合は3ヶ月という相場は存在せず、あくまでも申告者との個別の合意をし、その内容を監督官に報告するということになります。