割増賃金の遡及払い期間の相場は?
さて、監督官による調査は、無事?終了したとしましょう。
何事も指摘されることなく終了して欲しいと願う気持ちは山々ですが、残念ながらほとんどの場合、是正勧告、もしくは指導票といったものが出されることになります。
でも、心配しないでください。これからその対応について解説していきます。
先に述べた通り、監督官の監督の本質は、労働者の健康問題であるはずです。
しかし、平成13年秋頃から、当時の労働省と厚生省が合併して、余剰人員が増えてしまったために、何か目に見える成果をあげなければならないといって、割増賃金の未払いについて積極的に取り組むようになり、その結果、割増賃金の遡及払いに主眼を置いたかのような監督が多く見られるようになりました。
税務調査のときの「お土産」のような感じでしょうか。
憲法は、25条において、国民が健康で最低限度の生活を営む権利を謳い、それを具現化するために、27条により労働基準法を定め、それにより、最低賃金と、労働者の安全と健康を確保しようとしました。
最低賃金すら支払っていない会社であれば、それこそ徹底的に調査を実施し、割増賃金の遡及払いなど、いくらでも勧告したらよいと思うのですが、多くの会社は、総額人件費の枠組みの中で、最低賃金を遥かに上回る賃金を支払っています。
にもかかわらず、単純にタイムカードの打刻時間だけを捉えて、サービス残業が行われていると指摘し、過剰に割増賃金を支払わせようとする監督が行われるようになると、会社はどうしてよいのかわからず、困惑してしまいます。
タイムカードは、必ずしも実労働時間を正確に示すものではなく、割増賃金を含めた賃金の支払いを要する労働時間とイコールではありません。
したがって、あくまでも、割増賃金の問題は、総額人件費の枠の中で、労使間の信頼関係をもって対応できれば、何よりもそれが優先されるべきであると思います。
そうは言っても、実際に、監督官から、割増賃金の遡及支払いを命じられたら無視はできませんので(無視することは得策ではない)、その対応をどうすればよいのか考える必要があります。
まず、割増賃金遡及支払いの期間ですが、相場は3ヶ月です。
これは以前、労働省の通達で、3ヶ月分を限度として指導するということが決められており、これに根拠を見出せます。
実際、昭和62年5月22日の朝日新聞に、「割増賃金の不払い是正、3ヶ月分を限度と労働省通達 総評反発」という記事が掲載されています。
そして、記事の最後に、当時の労働省労働基準局監督課長の話が出ていますが、監督課長は、「指摘された通達は、監督官の業務指針として出した内部文書だ。3ヶ月という限度を設けたのは、割増賃金の対象となる労働時間の調査が大変手間取る作業で、1年も2年も遡るのは不可能に近く、3ヶ月くらいなら何とか調べられると判断したからだ。それに、未払い分の支払いを命じる権限は、労働基準法上はない。しかし何もしないのはまずいので、勧告している。」と言っているのです。
この昭和57年2月16日付通達は、昭和63年3月16日に撤回されていますが、その撤回通達においても、「賃金不払いに関する法違反の遡及是正については、監督時において不払い金額を具体的に確認した範囲内」としていることから、基本的な考え方は、今も変わっていないと言えます。
では、実際に割増賃金の遡及払いに関して、是正勧告書が出された場合に、どのように対応すればよいのかを説明します。